会報 第2号  平成13年1月29日発行

 「(株)枝下」のダイオキシン問題は、様々な疑問と不安を残しながら市当局の「安全宣言」によって、幕引きがされようとしていますが、豊田市のゴミ政策について真剣に議論しなければならない課題が、さらに起こってきました。 それは、市内渡刈町にある市の清掃工場の建替え問題です。市当局は、12月市議会で与党義員の質問に対して、ガス化溶融炉の採用を示唆し、今年度中(この3月まで)には基本方針を決定したいと答弁しました。しかし、ダイオキシン対策として、国が自治体を誘導しようとしているガス化溶融炉方式は、建設費、維持管理費、安全性などについて、多くの問題点が指摘されています。
 下記の集会は、この問題に焦点をあて、わが国の第一人者のお1人である津川敬さんに講師をお願いしました。多数のみなさんのご参加をいただき、この町のゴミ政策のあり方を議論したいと思います
と き
ところ
講 師
参加費
2日11日(日) 午後1時30分〜4時ごろ
豊田産業文化センター 4階(41会議室)
津川 敬 さん
無料
講師・津川 敬さん プロフィール
〈環境問題フリーライター)1937年東京浅草まれ。早稲田大学第二文学部卒。自治体に就職後、74年、故剣持一巳らと「コンピューター合理化研究会」を設立。全日本自治体労働組合(自治労)コンピュータ対策委員等を経て、93年「廃薬物処分場問題全国ネットワーク」に参加。96年「止めよう!ダイオキシン汚染・関東ネットワーク」会員に。現在、同ネットワ−ク脱焼却部会設立準備委員。 主な著書に「くたばれコンピュートピア!」(柘植書房・76)「コンピューターと自治体」(三一書房・82)「コンピュータの急所」(三一新書・83)「ドキュメントごみ工場」(技術と人間・93)「ごみ処分「処分場紛争」の本質」(三一新書・96)「検証・ガス化溶融炉ダイオキシン対策の切札か」(緑風出版・00)「教えて!ガス化溶融炉これでごみ問題は解決か」(緑風出版・02)など。

「豊田の廃棄物問題を考える市民集会」 (2000.11.28) 報告
 昨年は豊田そごう閉店にもショックを受けたが、産廃中間処理施設(焼却)(株)枝下の高濃度ダイオキシン検出も、市民を震撼させた大ニュースであった。この豊田市でまさか、という感じである。
 しかし、市内には北部地域を中心に数多くの産廃処理施設が存在しており、廃棄物問題に無縁の地域では決してないのだ。しかも、(株)枝下での検出濃度というのは環境基準の実に44倍(3500ナノグラム/Nm3)、産廃問題の住民運動に取り組む人々がこれを聞いてあきれたという程の値である。私たちはもっと危機感をもってもよいはずだが、この方面に関してあまりにも知らないことが多すぎて、いまいちピンと来ないのが現状だ。そこで、「廃棄物問題を語らせたらこの人」といわれる大久保貞利さん(廃棄物処分場問題全国ネットワーク)に講師役を引き受けてもらい、勉強しようということになったのが今回の集会である。

 枝下問題は終結したのか?

 私たちがまず大久保さんに訊きたかったのは、豊田市が「ダイオキシン再測定の結果、基準値を下回ったのでもう安全だ」という宣言を出したことについてである。(株)枝下の施設周辺のダイオキシン濃度の再測定(土壌・水質)結果は、どう見たらよいのだろうか。
 集会に先立って現場にも足を運んでもらったのだが、測定結果の「施設内の濃度は高いが施設外は低」という点を大久保さんは次のように疑問視する。・・・焼却によって発生する煙は処分場外へと流れていくものだが、それによる影響がなぜ測定結果に現れてこないのか?また、この調査・測定は行政と住民が共同して行われたものなのか?・・・これから推測するに、どうも片寄った結果が公表されている可能性がある・・・と指摘するのである。だが実際は、あの宣言で決着がつけられてしまった感がある。(株)枝下の操業は今は停止されているとはいえ、似たような処理施設が各地で稼動中だ。安全宣言はそれらに対する市民の監視の目をにぶらせることになりはしないだろうか。

 ダイオキシンを出さない「夢の・・・」

 ところで、廃棄物問題というのは、大きくいって
  1. 処分場問題(大量に排出されたゴミの行き場をどうするか)
  2. ダイオキシン問題(ゴミの分量を減らすための焼却処分の過程で発生するダイオキシンの有害性)
の2つに分けられる。出てしまったゴミを減らすためには、とにかく燃やすことという考え方が現在でも根強いので、高温焼却によりダイオキシンの発生を抑えれば、2つの問題は一挙に解決するのではないか?というのがどうも最近の傾向であるようだ。しかし大久保さんは「高温焼却で問題が解決できるのか?」「(ダイオキシン発生を抑える条件としての)大型炉で長時間、高温境却がそもそも可能なめか?」について、次のように説明する。
 高温焼却をすることで、ダイオキシン発生とは別の問題が起こってしまう。例えば、
  1. 新たな有害物質が生成される
  2. 重金属(カドミウム、ヒ素、水銀など)が俳優に混じりそれが俳出される
などである。そして大型の高温焼却炉とは、炉内を一定の高温状態に保つことが難しく(炉が大きいし、何よりいろんな性質のものが混ざっているので燃え方にむらができる)、結果的にダイオキシンは発生する(したがって、ダイオキシンを吸着するフィルターがいるそうだ)。また、高温状態では炉は傷みやすいなど稼働する上で難点も数多いのが実態だ。
 ではどうやってゴミを鹿やしたらよいのか?これではゴミは感やしようがないではないか−そう、ゴミは極力、燃やしてはならないのだ。大量焼却は地球温暖化にもつながるし、焼却でゴミの分量を減らそうとするのは間違っている
 大久保さんは従来の「ゴミはとにかく燃やす」考え方からまず脱却しよう、と訴えた。そしてゴミはなるべく出さないようにしていくこと、そのためにこれから市民が実践すべきこととして次の2点を強調した。
  1. ゴミの分別の徹底。資源化やそれぞれのゴミの性質に応じた適正処分、そして個々人のゴミ問題の意識を高めるためにも重要である。
  2. 廃棄物処分場をこれ以上造らせないという住民運動を各地で展開していくこと。
いったん造らせてしまったら、何か問題が起こった場合対応が難しい。集会では、全国各地の処分場の現場をスライド紹介してもらったのだが、見るもいやな写真ばかりであった。例えば・・・表面は土がかぶせてあるため一見してそれとはわからないが、掘っていくとゴミが次々と現れる山、埋立処分をするため大量の飲料缶を積んで走りさるトラック(飲料缶はリサイクルではなかったのか?)、化学反応で有毒ガスが発生するゴミ埋立地・・・。
 何が行なわれているのかわかったものではない、というのが処分場の実態なのかもしれない。事実(株)枝下も県の許可を受けずにプラスチック類を燃やし続けていたのである。

 このように廃棄物をめぐる環状をまざまざと見せつけられると、ひどく慄然とした気持ちになってくる。しかし、その一方で、何かいい打開策、救いの神の手があるかもしれないとかすかな望みを抱いていたのも事実だ。が、大久保さんの話は、それをも打ち砕く、大変ためにはなるがある意味こちらにとっては、「聞いていてつらい」内容であった。
 深刻な廃棄物問題が一挙に解決する夢の万能技術なるものをあてにして、物事の本質を見落としていてはいけない。そもそも、ゴミ処理の万能技術など、あると思ってはいけないのだ。出てしまったゴミをいじくり回す作業は、いかに危険を伴い、またいかに余計なエネルギーを食うものであるか。まずこの事実を知ることが第一歩である。そして今の生活様式に多少なりともうしろめたさを感じることが、社会全体の行動を少しずっ変えていく本当の原動力になるのではないか。
 本稿だけでは、中身の濃い大久保さんの話を十分に伝えきることができなかったが、これをきっかけに、廃棄物問題についてより多くの人により深く関心を持ってもらえたらと思っている。
(とよた市民の会 小笠原 輝美)

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