会報第14号 16年10月13日 発行
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第3回市民講座報告
スウェーデン現地から伝える福祉社会の現状
  講師:訓覇法子さん(日本福祉大学教授 ストックホルム大学研究員)
“北欧の福祉政策に学ぶ''をテーマにした市民講座は、8月1目松坂屋9階のとよた市民活動センターホールで、70名近くのみなさんの参加を得て開催されました。
 講師は、日本福祉大学に籍を置きながら、30年来ストックホルムに留学して福祉の研究をしている訓覇法子(くるべのりこ)さんで、スウェーデンの福祉政策を理解するのには、まさに最高の講師でした。

社会政策と福祉政策との違い
 訓覇さんは、「スウェーデンと日本とを比較する意味は、両者の違いをハッキリさせ、他を知って己を知ることにある」と前置きして、まず、スウェーデンと日本との制度的な違いを紹介しました。
 まず、人が困ったときに国家が必要な給付をするという、狭義の社会保障政策の考え方について、日本は国民の最低限の生活を保障するのに対し、スウェーデンでは平均的生活を保障するという考え方で、原則が大きく違っているという指摘がありました。次に、具体的な制度としては、男女に関係なく、15ヶ月間給料の80%が保障される育児休業手当があり、また、介護が必要な家族が生じたばあいに備えて、年60日間の介護有給休暇がとれるという制度の紹介がありました。そして、保育政策、男女平等政策、介護サービス制度などは、大きくは家族政策として体系化されているとのことでした。
 しかし、政策体系でのもっと大きな違いは、スウェーデンでは、雇用政策、教育政策、住宅政策が社会政策として組み込まれており、これが相まって福祉社会を充実・実現するものだとされている点です。
 雇用政策は、失業率3%以下の完全雇用を維持することが目標とされ、国際経済下の幸運も手伝って維持されてきています。
 教育については、義務教育から大学まで、家庭の所得額と関係なく、すべて無料。それは、「子供は親を選べないから、親の都合で勉強したい人の権利を奪ってはならない」という考え方からです。でも、目標をもって本当に学びたい者だけが大学へいくから、進学率は3割程度とのこと。大学生は、国が貸す学資ローンで生活し一生かかって返済するから、親のスネカジリの学生はいないということです。
 住宅政策は、夫婦以外は1人1寝室で1人当たり47uの空間の確保が基準(高齢者のぱあいは2人で68u)で、これを満たしていない家庭には住宅手当金が支給される。基準不足の家庭では、往宅手当金で家賃をほぼ賄うことができるといいます。
 このようなスウェーデンの政策に対して、日本では、社会保障政策だけが福祉政策と考えられ、雇用・教育・住宅問題は、直接的には福祉とは関係がないものとされています。
 こうした違いはどこからくるのでしょうか、と話が進みました。

普遍的福祉か、選択的福祉か
 訓覇さんは、人が国家から社会保障の給付金を受け取る権利は、19世紀以降貧困が社会問題になって定着した社会的市民権(=生存権)に根拠づけられるが、その認識はいわゆる先進国の間でも大きく違うと、スウェーデンと日本との比較論を進めました。

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