会報第26号 2010.6.17 発行
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下山の里山にトヨタテストコースがつくられる
さかい・ひろお(みどり東海)
名古屋市緑区

 愛知県豊田市下山地区と岡崎市額田町にまたがる山林にトヨタ自動車がテストコースを含む研究開発施設を作ろうとしている。建設予定地は総面積660haである。造成面積は当初410haであったが、2008年に絶滅危惧種サシバが確認されて280haに、2009年に270haに縮小された。それでも、愛知万博の会場より100haも広い。
 5月16日に県企業庁の説明会があり、参加した。報道陣も多く、以前に比べ少しはマスコミにも報道されるようになったようだ。今回は自然環境に及ぼす影響についてが中心テーマであったにもかかわらず、端正な身なりの人が多く、県の人たちやトヨタ関係と思われる人たちが席の多くを占めていた。下山地区の人たちもマイクロバスをチャーターしてかけつけていた。
 「事前に私たちに相談していてくれたなら、例え開発するにしても、ちょっとした工夫で、絶滅した生物の3割は防げたと思っています。企業庁が彼らを滅ぼしてきた」という日本野鳥の会県支部からの報告にも、企業庁は何の反論もしなかった。
 県とトヨタは自然破壊という追求を「里山の再生」と言う名目で逃げ切ろうとしている。地元も「しもやま里山協議会」を作って応じている。しかし、それはボランティアによる建設地の里山再生に過ぎない。「里山で生活できる経済システム」(「21世紀の巨大開発を考える会」の報告)が出来るわけではない。
 それでも、下山の人たちはそれにすがるしかない。
 人工林は間伐遅れがはげしく、農業は耕地面積が減少し、就業人口の8割が60歳以上である。子どもの数が半減し、若者は村を離れる。せめて、テストコースができれば、若者の就職口も出来るかもしれないし、活気も生まれる。4000人の従業員はほとんど研究者で、地元から従業員を雇うわけではないが、施設の掃除や食堂や守衛の仕事があるだろう。工事が始まれば、関連の仕事もあるだろう。一時かもしれないが、若者も戻ってくるかもしれない。そう考える下山地区の人たちの気持ちもわからないではない。それは全国に広がるダムや基地で過ごす人々にも共通する悩ましい問題である。
 COP10にむけての取り組みも、イベントばかりで、中味の議論が伝わってこない。日本は「SATOYAMAイニシアチブ」を提唱しようとしているが、トヨタのテストコースのような現実の問題を遡上にのせてこそ、「SATOYAMAイニシアチブ」が意味をもってくると思うのだが。

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