会報第25号 2009.11.11 発行
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トヨタ自動車テストコース
巨大開発の是非と里山の維持という難問

●新聞でも度々その計画について報道されているトヨタ自動車のテストコース。下山地区周辺の里山地域に着工の予定ですが、今年2月の豊田市議会で、予定地(豊田市側)の買収契約がほぼ完了したことが報告されました。そのテストコースとは、
 @ テストコース(14コース)、研究棟、実験棟、厚生施設など複数の施設が建設される。研究者その他の就労者合わせて約6000名が就労する予定。
 A 総面積は660ha。そのうち改変される面積は280haであり、昨年に改変面積の縮小が発表された。
というもので、土地の買収・造成は行政(愛知県企業庁)が行ないますが、それらにかかる費用(愛知県企業庁が代行した手続きの人件費も)はトヨタ自動車が負担します。

◆昨年9月に改変面積が(410haから)280haに縮小されたのは、建設予定地内で絶滅危惧種の野鳥であるサシバ・ハチクマの繁殖が確認されたためです。その後、予定地内でレッドリストに掲載されている種が30種確認され、岡崎の織田重己さんが会長である「21世紀の巨大開発を考える会」が今年7月に絶滅危惧種のミゾゴイの営巣を確認しました。
※「21世紀の巨大開発を考える会」のホームページに、現地の状況が詳しく載っています。下山地区ののどかな里山風景も見られて癒されます!ぜひ皆さんアクセスしてください。

≪ホームページアドレス≫  http://bio-diversity.info/

 このミゾゴイはサギ科の野鳥で、環境省のレッドリスト絶滅危惧種IB類に指定されています。世界に1千羽程度しか生息しないとの見方もあり、実態はよくわかっていない希少生物です。織田さんがミゾゴイの営巣に影響を与えないよう非常に気を使いながら調査を続け、雛の巣立ちを確認したことを語ってくれました(ミゾゴイの営巣確認については8月7日に新聞各紙で報道されました)。
 これを受けて、8月に、上記考える会と愛知県野鳥保護連絡協議会、財団法人日本野鳥の会、日本湿地ネットワークが共同で、愛知県、環境省、トヨタ自動車に対し、計画地の生物多様性の保全に関しての要望を行ないました。その内容としては、県とトヨタに対し代替地の検討・確保を求め、県には計画地内の湿地のラムサール条約(湿地保護の国際条約)への登録を求めるものです。また、環境省に対しては、影響回避のための県への助言を要望しています(上記要望書の詳細は日本野鳥の会のホームページで確認することができます)。9月29日付中日新聞夕刊で、愛知県企業庁がミゾゴイの生息調査や保全技術の検討を来年まで延長する方針を固めたことが報道されました。これによって当初2010年度中にコース着工の予定が少なくとも1年先送りされることとなりました。

●私たちとよた市民の会のメンバー3人は、約1年4か月ぶりに再び現地を訪れました。先回と同様、織田さんが案内役を務めてくれ、トヨタや県に要望書を提出した愛知県野鳥保護連絡協議会の方々多数参加していました。織田さんが広々とした水田跡を指差し「立派に整備されたところですが来年にはもう耕作が行なわれないんです。ここも計画地ですから埋められる予定です。残される水田についてはトヨタが耕作することになると思うが…」と説明しました。
 ミゾゴイの営巣を確認したことについては、「私は30年間バードウォッチングをしているが、ミゾゴイは初めて見た」とやや興奮気味に語ってくれました。織田さんのお話から、水田や川といった湿地がある里山がいかに生物にとって素晴らしい環境であるかを、改めて感じました。そこには希少生物がひっそりと棲んでいるのだよと教えてもらわなければ、私たちは里山の価値を知らずに壊し続けていってしまうかもしれません。

◆田原から参加した愛知県野鳥保護連絡協議会の議長である大場康利さんが、テストコース計画について「テストコースと研究開発施設をこの地域で隣接して建設しようとしている。データ通信技術が発達している現在なら、既存のテストコースを利用して研究開発することは可能ではないのか。非常に欲張りな計画であると思う」と指摘しました。一企業が費用を負担して行なう事業であるので、税金が投入される公共事業と違って市民が意見を述べるのは容易ではありませんが、事業の影響を考えるとこのまま見過ごすわけにもいかない、というのがこの日に現地を訪れた人たちの気持ちであったと思います。「県やトヨタを交えた公開の説明会を実施させるべき」との意見も参加者から出されました。
 あわせて、事業の見直しだけでなく、里山の維持の方法をトヨタや地元の人たちと考えていかないと生物多様性の保全にはなりません。織田さんは、里山の価値を皆さんに広く知ってもらうため、炭焼きをして炭の利用を呼び掛ける運動をしているとのことでした。

●里山というのは、人の手が入っている山です。以前に私がこの会報でも書いた通り、人の手の入らない森よりも、適度に人の手の入っているところのほうが、生物にとってエサが見つけ易いそうです。水田がその好例です。
 今回のトヨタのテストコース計画は、巨大開発の是非を問うという点でも重要ですが、里山の維持を誰がやるか?という難問の前に、私は正直考え込んでしまいます。実際に、この計画の見直しを求める人の中にも、現実的な解決策を提案したほうが良いという意見があります。第三者的に「自然を守れ」と叫ぶだけでは済まない、という思いが私の中ではあります。里山の維持・農地の保全について皆さんはどう考えますか?そして自分であったらその問題にどのように関わる事ができると思いますか?このテストコース計画は、自動車産業と農業のまちである豊田市が抱える象徴的な課題のように感じています。
(小笠原輝美)

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